/\》寝られねえに、酒を食《くら》はせて、勝手な事を言はせて置くつて言ふ法は無《ね》えだ。駐在所で意気地が無くつて、何うする事も出来ねえけりや、村で成敗《せいばい》するより仕方が無えだ。爺《とつ》さん退《ど》かつせい、放さつせい」と二十一二の体の肥つた、血気の若者は、取られた袂《たもと》を振放つて、いきなり、重右衛門の横面《よこつら》を烈しく撲つた。
「此奴《こいつ》!」
 と言つて、重右衛門は立上つたが、其儘《そのまゝ》その若者に武者振り付いた。若者は何のと金剛力を出したが、流石《さすが》は若者の元気に忽地《たちまち》重右衛門は組伏せられ、火のごとき鉄拳《てつけん》は霰《あられ》とばかりその面上頭上に落下するのであつた。
 見兼ねて、老人が五六人寄つて来て、兎に角この組討は引分けられたが、重右衛門は鉄拳を食ひし身の、いつかなこの仲裁を承知せず、よろ/\と身体《からだ》をよろめかしながら、猶《なほ》其相手に喰つて蒐《かゝ》らうとするので、相手の若者は一先《ひとまづ》其儘次の間へと追遣られた。
「おい、人を撲《なぐ》らせて、相手を引込ませるつて言ふ法は何所《どこ》にあるだ。おい、こら、相
前へ 次へ
全103ページ中87ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング