撲つて見ろ!」
 と言ふと、ばら/\と人が撲《う》ちに蒐《かゝ》つた様な気勢《けはひ》が為たので、自分は友の留めるのをも振り解《ほど》いて、急いで次の間の、少し戸の明いて居る処へ行つて、そつと覗いた。いづれも其方《そつち》にのみ気を取られて居るから、自分の其処に行つたのに誰も気の付く者は無い。自分の眼には先《まづ》烟《けむり》の籠《こも》つた、厭《いや》に蒸熱《むしあつ》い空気を透《とほ》して、薄暗い古風な大洋燈《おほランプ》の下に、一場の凄《すさま》じい光景が幻影《まぼろし》の如く映つたので、中央の柱の傍に座を占めて居る一人の中老漢《ちゆうおやぢ》に、今しも三人の若者が眼を瞋《いか》らし、拳《こぶし》を固めて、勢《いきほひ》猛《まう》に打つて蒐《かゝ》らうとして居るのを、傍の老人が頻《しき》りにこれを遮《さへぎ》つて居るところであつた。この中老漢、身には殆ど断々《きれ/″\》になつた白地の浴衣《ゆかた》を着、髪を蓬《おどろ》のやうに振乱し、恐しい毛臑《けずね》を頓着せずに露《あら》はして居るが、これが則《すなは》ち自分の始めて見た藤田重右衛門で、その眼を瞋《いか》らした赤い顔には、ま
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