居なければならねえと言ふのでもねえ、男と生れたからにや、東京にでも出て一旗挙げて来る様で無けりや、話にも何にも為《な》らねえと言ふ者《もん》だ……」
 重右衛門は殆ど情に堪へないといふ風で潮《うしほ》の如く漲《みなぎ》つて来る涙を辛うじて下唇を咬《か》みつゝ押へて居た。
「本当でごいすよ、私は決して自分に覚えの無《ね》え事を言ふんぢやねえんだから、……本当に一つ奮発さつしやれ、屹度《きつと》それや立身するに極つてるから」
「私は駄目でごす……」と涙の込み上げて来るのを押へて、「私ア、とても貴郎《あんた》の真似は出来ねえでごす。一体、もうこんな体格《からだ》でごいすだで」
「そんな事はあるものか」と貞七は口では言つたが、成程それで十分に奮発する事も出来ないのかと思ふと、一層同情の念が加はつて、愈《いよ/\》慰藉《ゐしや》して遣らずには居られなくなつた。
「本当にそんな事は無い。世の中にはお前さんなどよりも数等|利《き》かぬ体で、立派な事業を為た人はいくらもある。盲目《めくら》で学者になつた塙検校《はなはけんげう》と言ふ人も居るし、跛足《びつこ》で大金持に為つた大俣《おほまた》の惣七といふ
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