は唾《つば》を吐き懸けられる、村の人にはてんから相手にされぬといふ始末で、夜逃の様にして村を出て行つたが、其時の悲しかつた事は今でも忘れない。あの倉沢の先の吹上《ふきあげ》の水の出て居る処があるが、あそこで、石に腰を懸けて、もうこれで村に帰つて来るか何《ど》うだかと思つた時は、情なくなつて涙が出て、いつそこゝで死んで了はうかとすら思つた程であつた。けれど……思返して、何うせ死ぬ位なら、江戸に行つて死ぬのも同じだ、死んだ積りで、量見を入れかへて、働いて見よう……とてく/\と歩き出したが、それが私の運の開け始めで、それでまア、兎《と》に角《かく》今の身分に為つた……」
「私なんざア、駄目でごす…‥」
 と重右衛門は言つたが、其顔はおのづから垂れて、眼からは大きな涙がほろ/\と膝の上に落ちた。
「駄目な事があるものか。私などもお前さんの様に、其時は駄目だと思つた。けれどその駄目が今日のやうな身分になる始となつたぢやがアせんか。何でも人間は気を大きくしなければ好《い》けない」
 答の無いのに再び言葉を続《つ》いで、
「村の奴などは何とでも勝手に言はせて置くが好い。世の中は広いのだから、何も村に
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