身持が治《をさま》り懸けた重右衛門が再び遊廓に足を踏み入れるやうに為り、少しく手を下し始めた荒廃した田地の開墾が全く委棄《ゐき》せられて了つたのも、これも余儀ない次第であらう。
 ※[#「にんべん+尚」、第3水準1−14−30]《も》し、この危機に処して、一家の女房たるものが、少しく怜悧《れいり》であつたならば、狂瀾《きやうらん》を既に倒るゝに翻《ひるがへ》し、危難を未《いま》だ来らざるに拒《ふせ》ぐは、さして難い事では無いのである。が、天は不幸なるこの重右衛門にこの纔《わづ》かなる恩恵《めぐみ》をすら惜んで与へなかつたので、尋常よりも尚《なほ》数等愚劣なるかれの妻は、この危機に際して、あらう事か、不貞腐《ふてくされ》にも、夫の留守を幸ひに、山に住む猟師《れふし》のあらくれ男と密通した。
 そして、それの露顕した時、
「だつて、その位《くれゐ》は当《あた》り前《めへ》だア。お前さアばか、勝手な真似して、己《うら》ら尤《とが》められる積《せき》はねえだ」
 とほざいた。
 重右衛門は怒つたの、怒らないのツて、
「何だ、この女《あま》!」
 と一喝して、いきなり、その髪を執《と》つて、引摺
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