で、渓流の半面はその美しい光に明かに輝いて居るが、向ふに偏《かたよ》つた半面には、また容易に其光が到着しさうにも見えぬ。自分は崖に凭《よ》つて、そして今夜の出来事を考へた。友の言葉やら、村の評判やらから綜合《そうがふ》して見ると、この事件の中心に為《な》つて居る重右衛門といふ男は確かに自暴自棄に陥つて居るに相違ないと自分は思つた。けれど何うして渠《かれ》はその自暴自棄の暗い境に陥つたのであらうか。先程の老婆の言ふ所によれば、祖父様が悪いのだ、あまり可愛がり過ぎたから、それで彼様《あん》な風に為つたのだと言ふけれど、単に愛情の過度といふのみで、それで人間が、己《おのれ》の故郷の家屋を焼くといふ程の烈しい暗黒の境《きやう》に陥るであらうか。殊に此村には一種の冒険の思想が満ち渡つて居て、もし単に故郷に容《い》れられぬといふばかりならば、根本の父のやうに、又は塩町の湯屋のやうに、憤《いきどほり》を発して他郷に出て、それで名誉を恢復《くわいふく》した例《ためし》は幾許《いくら》もある。であるのに、それを敢《あへ》て為《し》ようとも為《せ》ず、かうして故郷の人に反抗して居るといふのは、其処に何か理
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