には出来ねえだ」
 と他の老婆は言葉を合せた。
 自分は其前をも行過ぎた。
 すると、路の角に居酒屋らしいものがあつて、其処には洋燈《らんぷ》が明るく点《つ》いて居るが、中《うち》には七八人の村の若者が酒を飲んで、頻《しき》りに大きい声を立《たて》て居る。
 立留つて聞くと、
「重右衛門は火事の中何処に行つて居たツて?」
「奴か、奴ア、直き山県さんの下の家に行つて、火事見舞に来たとか、何とか言つて、酒の馳走になつてけつかつた。あの位図太い奴ア無いだ」
「さういふ時、思ふさま、酒|喰《くら》はして、ぐつと遣つて仕舞へば好いんだ」
「本当にそれが一番早道だア、と我《おら》ア、いつでも言ふんだけど、まさか、それも出来ねえと見えて、それを遣つて呉れる人が無えだ」
「忌々《いめ/\》しい奴だなア」
 と其中の一人が叫んだ。
 自分は又歩き出した。路が其処から川の方に曲つて居るので、それについて左に曲り、猶《なほ》半町ほど辿《たど》つて行くと、もう其処は尾谷川の崖《がけ》で、石に激する水声が、今迄|種々《いろ/\》な悪声を聞いた自分の耳に、殆《ほとん》ど天上の音楽の如く聞える。月はもう高くなつたの
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