、火事の後の空はいよ/\澄んで、山中の月の光の美しさは、此の世のものとは思はれぬばかりであるから、少し渓流の畔《ほとり》でも歩いて見ようと、其儘《そのまゝ》焼跡をくるりと廻つて、柴の垣の続いて居る細い道を静かに村の方へと出た。
村へ出て見ると、一軒として大騒を遣つて居らぬ家は無く、鎮火と聞いて孰《いづれ》も胸を安めたやうなものの、かう毎晩の様に火事があつては、とても安閑として生活して居られぬといふそは/\した不安の情が村一体に満ち渡つて、家々の角には、婦《をんな》やら、老人《としより》やらが、寄つて、集《たか》つて、いろ/\喧《かしま》しく語り合つて居る。
「本当にかう毎晩のやうに火事があつては、緩《ゆつ》くり寝ても居られねえだ。本当に早く何《ど》うか為《し》て貰はねえでは……」
「駐在所ぢや、一体《いつてい》何を為て居るんだか、はア、困つた事だ」
前の老人らしい声で、
「駐在所で、仕末が出来《でけ》ねえだら、長野へつゝ走つて、何うかして貰ふが好《え》いし、長野でも何うも出来ねえけりや、仕方が無えから、村の顔役が集《たか》つて、千曲川へでも投込《はふりこ》んで了ふが好《え》いだ」
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