は一つの黒い影を止めなくなつて了つた。
「熱つくて堪らねえ」
「まご/\して居ると、焼死んで了ふア」
「何うしやがつたんだ。一体、喞筒《ポンプ》は? 気が利《き》かねえ奴等でねえか」
 と土蔵から下りて来た人の会話らしい声がすぐ自分の脚下《あしもと》に聞える。
 と、思ふと、向ふの低い窪地《くぼち》に簇々《むら/\》と十五六人|許《ばかり》の人数が顕《あら》はれて、其処に辛うじて運んで来たらしいのは昼間見たその新調の喞筒である。
 やがて火光に向つて一道の水が烈しく迸出《へいしゆつ》したのを自分は認めた。
「喞筒《ポンプ》確《しつ》かり頼むぞい!」
「確かり遣れ」
「喞筒!」
 と彼方《あつち》此方《こつち》から声が懸る。
 で、その喞筒《ポンプ》の水の方向は或は右に、或は左に、多くは正鵠《せいこく》を得なかつたにも拘《かゝは》らず、兎《と》に角《かく》、多量の水がその方面に向つて灑《そゝ》がれたのと、幸ひ風があまり無かつたのとで、下なる低い家屋にも、前なる高い土蔵にもその火を移す事なしに、首尾よく鎮火したのである。
 それが丁度十時二十分。
 疲れたから、帰つて、寝ようかとも思つたが
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