その新調の喞筒《ポンプ》も、まだ其現場に駆け付けては居らなかつた。暫時《しばらく》すると、燻《くすぶ》つて居た火は恐ろしく凄じい勢でぱつと屋根の上に燃え上る……と……四辺《あたり》が急に真昼のやうに明くなつて、其処等に立つて居る人の影、辛《から》うじて運び出した二三の家具、其他いろ/\の悲惨な光景が、極めて明かに顕《あら》はれて見える。火は既に全屋に及んで、その火の子の高く騰《あが》るさまの凄じさと言つたら、無い。幸ひに風が無いので、火勢は左程《さほど》四方には蔓延《まんえん》せぬけれど、下の家の危さは、見て居ても、殆ど冷汗が出るばかりである。
「喞筒《ポンプ》!」
と叫ぶ声。
「おい、喞筒は何を為《し》て居るだアーい」
と長く曳いて叫ぶ声。
けれど、本当に何うしたのか、喞筒はまだ遣つて来るやうな様子も見えぬ。屋根の焼落つる度《たび》に、美しく火花を散した火の子が高く上つて、やゝ風を得た火勢は、今度は今迄と違つて士蔵の方へと片靡《かたなび》きがして来た。土蔵の上には五六人ばかり人が上つて頻《しき》りに拒《ふせ》いで居た様子だつたが、これに面喰《めんくら》つてか、一人/\下りて、今
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