。何でも酒を余程飲んで居た風だつた」
「誰が酒を飲ましたのか知らん」
「誰がツて……野郎、又|威嚇《おどし》文句で、又兵衛(酒屋の主人)の許《とこ》へ行つて、酒の五合も喰《くら》つて来たんだ」
「困り者だナア」
と根本は心《しん》から独語《つぶや》いた。
「それから、言ふのを忘れたが、……先程《さつき》此処に来る時、あの森の傍で、がさ/\音が為《す》るから、何かと思つて、よく見ると、あの娘つ子め、何かまご/\捜して居る。此奴《こいつ》怪しいと思つたから、何を為《し》てるんだ! と態《わざ》と大《でか》い声を懸《か》けて遣つた。すると、猫のやうな眼で、ぎよろツと僕を見て、そしてがさ/\と奥の方に身を隠して了つた。丸で獣に些《ちつ》とも違はない……それから、私は、会議所に行つて、これ/\だから注意して呉れと言つて来た」
自分は二人の会話を聞きながら、山中の平和といふ事と、人生の巴渦《うづまき》といふ事を取留《とりとめ》もなく考へて居た。月は段々高くなつて、水の如き光は既に夜の空に名残《なごり》なく充ち渡つて、地上に置き余つた露は煌々《きら/\》とさも美しく閃《きら》めいて居る。さらぬだ
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