…富山君が来たと謂《い》ふから、松本君に頼んで、代つて貰つたんです。その代り今夜十時から二時間ばかり忍びの方を勤めさせられるのだ」
「僕も二時から起される訳になつて居るんだが」と言つて、急に言葉を変へて、「それから、先程《さつき》聞くと、昼間あの娘つ子が喞筒《ポンプ》の稽古を見て居たと言ふが、それア、本当かね」
「本当とも……総左衛門どんの家の角の処で、莞爾《にこ/\》笑ひながら見てけつかるだ。余り小癪《こしやく》に触るつて言ふんで、何でも五六人|許《ばかり》で、撲《なぐ》りに懸つた風なもんだが、巧にその下を潜《くゞ》つて狐のやうに、ひよん/\遁《に》げて行つて了つたさうだ。……それから重右衛門も来て見物して居たぢやないか」
「重右衛門も?」
「あの野郎、何処まで太いんだか、見物しながら、駐在所の山田に喧嘩見たやうな事を吹懸《ふつか》けて居たつけ。何んだ、この藤田重右衛門が駐在所の巡査なんか恐れやしねえ、何んだ村の奴等ア、喞筒《ポンプ》なんて、騒ぎやがつて、それよりア、この重右衛門に、お酒《みき》でも上げた方が余程|効能《きゝめ》があるんだ。ツて、大きな声で呶《ぬか》して居やがつたつけ
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