ア」
「それが、彼奴《きやつ》が実行するのなら、無論見付けない事は無いだすが、彼奴の手下に娘《あま》つ子《こ》が一人居やして、そいつが馬鹿に敏捷《すばしつこ》くつて、丸で電光《いなづま》か何ぞのやうで、とても村の者の手には乗らねえだ」
「それは奴の本当の娘なんですか」
「否《いや》、今年の春頃から、嚊《かゝあ》代《がは》りに連れて来たんだといふ話で、何でも、はア、芋沢《いもさは》あたりの者だつて言ふ事だす。此奴が仕末におへねえ娘《あま》つ子《こ》で、稚《ちひさ》い頃から、親も兄弟もなく、野原で育つた、丸で獣《けだもの》といくらも変らねえと云ふ話で、何でも重右衛門(嫌疑者の名)が飯綱原《いひつなはら》で始めて春情《いゝこと》を教へたとか言《いふ》んで、それからは、村へ来て、嚊の代りを勤めて居るが、これが実に手におへねえだ。重右衛門が自身手を下すのでなく、この獣のやうな娘《むすめ》つ子《こ》に吩附《いひつ》けて火を放《つ》けさせるのだから、重右衛門と言ふ事が解つて居ても、それを捕縛するといふ事は出来ず、さればと言つて、娘つ子は敏捷《すばしこく》つて、捕へる事は猶々《なほ/\》出来ず、殆ど困
前へ 次へ
全103ページ中39ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング