入学して来た二人の学生があつた。一人は髪の毛の長い、色の白い、薄痘痕《うすあばた》のある、背の高い男で、風采は何所《どこ》となく田舎臭《ゐなかくさ》いところがあるが、其の柔和な眼色《めつき》の中《うち》には何所《どこ》となく人を引付ける不思議の力が籠《こも》つて居て、一見して、僕は少なからず気に入つた。一人はそれとは正反対に、背の低い、色の浅黒い痩《やせ》こけた体格で、其顔には極《ご》く単純な思想が顕《あら》はれて居るばかり、低頭勝《うつむきがち》なる眼には如何《いか》なる空想の影をも宿して居るやうには受取れなかつた。二人とも綿《めん》の交つた黒の毛糸の無意気《ぶいき》な襟巻《えりまき》を首に巻付けて、旧《ふる》い旧い流行後れの黒の中高帽を冠つて(学生で中高帽などを冠つて居るものは今でも少い)それで、傍《そば》で聞いては、何とも了解《わか》らぬやうな太甚《はなはだ》しい田舎訛《ゐなかなまり》で、互に何事をか声高く語り合ふので、他の学生等はいづれも腹を抱へて笑はぬものは無い。
「イット、エズ、エ、デック」
とナショナルの読本《リードル》の発音が何うしても満足に出来ぬので、二人はしたゝか
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