へと行つた。一方稲の穂の豊年らしく垂れてゐる田、一方|甜瓜《まくはうり》の旨《うま》さうに熟して居る畠の間の細い路を爪先上りにだら/\とのぼつて行くと、丘と丘との重り合つた処の、やゝ低く凹《くぼ》んだ一帯の地に、一|棟《むね》の茅葺《かやぶき》屋根と一つの小さい白壁造の土蔵とがあつて、其後には欅《けやき》の十年ほど経《た》つた疎《まば》らな林、その周囲には、蕎麦《そば》や、胡瓜《きうり》や唐瓜《たうなす》や、玉蜀黍《たうもろこし》などを植ゑた畠、猶《なほ》近づくと、路の傍に田舎《ゐなか》には何処にも見懸ける不潔な肥料溜《こやしだめ》があつて、それから薪《まき》を積み重ねた小屋、雑草の井桁《ゐげた》の間に満遍なく生えて居る古い井《ゐど》、高く夕日の影に懸つて見える桔※[#「槹」の「白」に代えて「自」、337−下−13]《はねつるべ》、猶その前に、鍬《くは》や鋤《すき》を洗ふ為めに一間四方ばかり水溜が穿《うが》たれてあるが、これはこの地方に特有で、この地方ではこれを田池《たねけ》と称《とな》へて、その深さは殆ど人の肩を没するばかり、鯉《こひ》、鮒《ふな》の魚類をも其中に養つて、時には四五尺
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