として居るので、頻《しき》りに二箇の管を其方向に向けつゝあるが、一度《ひとたび》はそれが屋根の上を越えて、遠く向ふに落ち、一度は見当違ひに一軒先の茅葺《かやぶき》屋根を荒し、三度目には学校の下の雨戸へしたゝか打ち付けた。
「やあ!」
 と後で喝采《かつさい》した。
 見ると、路の傍、家の窓、屋根の上、樹《き》の梢《こずゑ》などに老若男女|殆《ほとん》ど全村の人を尽したかと思はるゝばかりの人数が、この山中に珍らしい喞筒《ポンプ》の練習を見物する為めに驚くばかり集つて居るので、旨《うま》く行つたとては、喝采し、拙《まづ》く行つたとては、喝采し、やれ管が何《ど》うしたの、やれ誰さんがずぶ濡《ぬ》れになつたのと頻りに批評を加へるのであつた。
 余り面白いので、自分は思はず立留つてそれを見た。この多い若者の中《うち》に自分の友が交つて居はせぬかとも思はぬではなかつたが、さりとて別段それを気にも留めずに、只《たゞ》余念なく見惚《みと》れて居た。自分の前には川に浸《つ》けてある方の管が蛇ののたくつたやうに蟠《わだかま》つて、其中を今しも水が烈しい力で通つて行くと覚しく、針のやうな隙間から、しう/\と
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