新しい一箇《ひとつ》の赤塗の大きな喞筒《ポンプ》が据《す》ゑられてあつて、それから出て居る一箇のヅックの管《くだ》は後の尾谷《をたに》の渓流に通じ、二箇《ふたつ》の径五寸ばかりの管は大空に向つて烈しい音を立てながら、盛んに迸出《へいしゆつ》して居るのを認めた。
 其|周囲《まはり》には村の若者が頬かぶりに尻はしよりといふ体《てい》で、その数|大凡《およそ》三十人|許《ばか》り、全く一群《ひとむれ》に為《な》つて、頻《しき》りにそれを練習して居る様子である。喞筒《ポンプ》の水を汲み上げるもの、ヅックの管を荷《にな》ふもの、管の尖《さき》を持つて頻りに度合を計つて居るもの、やれ今少し力を入れろの、やれ管が少し横に曲るの、やれ洩るの、やれ冷いのと、それは一方《ひとかた》ならぬ大騒で、世話人らしい印半纏《しるしばんてん》を着た五十|格好《かつかう》の中老漢《ちゆうおやぢ》が頻りにそれを指図して居るにも拘《かゝ》はらず、一同はまだ好く喞筒の遣《つか》ひ方に慣《な》れぬと覚しく、管から迸出する水を思ふ所に遣らうとするには、まだ余程困難らしい有様が明かに見える。一同は今水を学校の屋根に濺《そゝ》がう
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