ないで失望して帰つて了ふし、根本は家から迎ひの者が来て無理往生に連れて行つて了ふし、唯一人杉山ばかり自分と一緒に其志を固く執《と》つて、翌年の四月陸軍幼年学校の試験に応じたが自分は体格で不合格、杉山は亦《また》学科で失敗して、それからといふものは自分等の間にもいつか交通が疎《うと》くなり、遂《つひ》には全く手紙の交際になつて了つた。杉山は猶《なほ》暫く東京に滞《とゞま》つて居た様子であつたが、耳にするその近状はいづれも面白からぬ事ばかりで、やれ吉原通《よしはらがよひ》を始めたの、筆屋の娘を何うかしたの、日本授産館の山師に騙《だま》されて財産を半分程|失《な》くしたのと全く自暴自棄に陥つたやうな話であつた。それから一年程経つて失敗に失敗を重ねて、茫然《ぼんやり》田舎に帰つて行つた相だが、間もなく徴兵の鬮《くじ》が当つて高崎の兵営に入つたといふ噂《うはさ》を聞いた。

     四

 五年は夢の如く過ぎ去つた。
 其の五年目の夏のある静かな日の事であつた。自分は小山から小山の間へと縫ふやうに通じて居る路を喘《あへ》ぎ/\伝つて行くので、前には僧侶の趺坐《ふざ》したやうな山が藍《あゐ》を溶
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