、一つ奮発して、江戸へ行つて皆の衆を見返つて遣らうといふ気は無いか。私《わし》などを見なされ、一度は随分村の衆に馬鹿にされて、口惜しい/\と思つたが、今では何うやらかういふ身になつて、人にも立てられる様になつた。三之助、貴様は本当に一つ奮発して見る気は無いか。と懇々説諭されて、鬼の眼に涙を拭き/\、餞別《せんべつ》に貰つた金を路銀《ろぎん》にして、それで江戸へ出て来たが、二十年の間に、何う転んで、何う起きたか、五千といふ金を攫《つか》んで帰つて来て、田地を買ふ、養蚕《やうさん》を為る、金貸を始める、瞬《またゝ》く間に一万の富豪《しんだい》! だから、村では根本の家をあまり好くは言はぬので、その賽銭箱の切取つた処には今でも根本三之助窃盗と小さく書いてあつて、金を二百円出すから、何うかそれを造り更《か》へて呉れろと頼んでも、村の故老は断乎《だんこ》としてそれに応じようともせぬとの事である。その長男がまた新しい青雲を望んで、ひそかに国を脱走するといふのは……何と面白い話では無いか。
けれど自分がこの三人と交際したのは纔《わづ》か二年に過ぎなかつた。山県は家が余り富んで居ない為め、学資が続か
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