來たものは、山で一日遊んでゐるけれど、大抵な人達は、材料のあるところでは、竹や木を切つて來て仕事をした。そして一里二里位あるところを里へと出かけた。
大勢になつてからは、かうした山の中に、こんな賑かな光景があるかと思はれるやうな状態が毎夜續いた。誰の心も、歸國を前にして、樂しい思ひに滿ちあふれてゐた。常公に限らず、若い人達は、やがて來るべき結婚の期節を皆な頭に繰返してゐた。樹の枝から枝へと並べて張つたテントは、丁度庇を並べた町家のやうに見えた。バケツを下げて水を汲みに行く娘、そこらを面白さうにかけずり廻つてゐる子供達、里から歸つて來る人達は、大抵大きな徳利に酒を滿して持つて來た。
渡鳥がもう群を成して山から山へとやつて來た。それを獲るために、老人連はかねて準備して置いた網を山の峯の上へと持つて行つて張つた。そこに若者はをりをり訪ねて行つたりした。
『おんさん獲れるかね。』
老人は默つて其處に置いてある網のついた籠を指した。つぐみが澤山に澤山にその中に入つてゐた。見てゐる中に、一羽二羽飛んで來てはかゝつた。
ある谷合では、鹿が二疋も三疋もゐるのを發見した。群の中に生憎鳥銃を持つた
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