歸國
田山花袋
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「者/火」、第3水準1−87−52、69−11]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)足がふら/\して
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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一
一行は樹立の深く生茂つた處から、岩の多い、勾配の高い折れ曲つた羊齒の路を喘ぎ喘ぎ登つて行つた。ちびと綽名をつけられた背の低い男が一番先に立つて、それから常公、政公、眇目の平公、子供を負つた女もあれば、木の根に縋り付いて呼吸をきらして登つて行く女もある。年寄もあれば、若い者もある。一行總て十五六人、誰も皆な重さうに荷物を負つて手には折つた木の枝を杖にしてゐた。
十月の初めは、山にはもう霜が置いた。風も寒かつた。昨日の朝などは、温度が俄かに下つて、山の奧には白く雪が見え、谷から汲んで來たバケツの水は薄く氷つた。つく呼吸は朝の空氣を透して其處此處に白く見えた。かれ等は山から山へと長い
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