は皆な其處此處から集つて來た。誰も彼も荷物を負つた。七八歳になる子供まで皆な小さな包を負はせられた。
 一行はもう三十人近くなつてゐた。先に行くものもあれば、後からつゞくのもある。勞れた足を引摺るやうにしてゐるものもあれば、さつさと元氣よく先に立つて行くものもある。路は高原から林の中に入り杜の中からまた高原へと出て行つた。
 此處等はもう里からは遠く離れてゐた。里の樵夫も、此處までは入つて來たやうな路はなかつた。谷川の音が何處か遠くで咽ぶやうにきこえた。
 一行の最後を、常公とその妹娘とが並んで歩いて行つた。山坂にかゝると、常公は娘を後から押すやうにした。二人は一行の姿の見えるか見えない位のところを歩いてゐた。
『ちよつくら休むべい。』
 かう言つては二人は路傍の木の根に腰をかけた。
『姉さん、泣いたゞ、……姉さんにわるいでな。』
『よく言ふでな、俺が……』
『でも姉さん一人ぼつちになつて了つてな。それが、何よりわりい……』
『何か言つたか。』
『何にも言はねえ。』
『でも、知つちやゐるな。』
『知つてるともな……』
『でも仕方がねえや、かうなつたんだで……。唯、おんさんが怖いな。』

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