土に塗れた着物、荒れた唇、蓬ろなす髪、長く生えた鬚、さういふものが到るところにあつた。若い娘と若い男達は、後の林の木立の中深く入つて行つた。
繰返して語られるのは、長い間の旅の艱難と、辛勞と、その折々についてのめづらしい物語とであつた。逢うての喜悦、別れての悲哀は、矢張かういふ放浪者の群にもあつた。それに、後から合した群は、大きな山脈を越えて、海近くまで行つたので、めづらしい物語を澤山に澤山に持つてゐた。
二人の老人はかうした群から少し離れて斜坂になつた草藪のところに腰をかけて話してゐた。主として彼方此方で別れた連中の話が問題になつてゐた。
『もう、此處等近くに來てると思ふがな。』
『來てるに違ひねえ。』
『まア、仕方がねえ。向うに行つて、一日二日待つて見るだ。成だけ、一緒になつて歸つて行く方が好いで……』
『ほんまぢや……』
『紋十郎の組は何うしたんべ。何處でも、ちつとも、奴の組の衆には出會はさなかつたがな、……お前は何うぢやつた。』
『俺も知らねえ。』
『何處か遠くへでも行つたかな。』
『さうかも知んねえ。』
一時間ほどして、一行は出發の準備に取りかゝつた。相圖につれて、一行
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