やんして。』
こんな會話が其處にも此處にも起つた。
常公や平公の仲の好い友達などもその群の中にゐた。貞公と言ふ男は、『えらい目に逢つたぞや。熊にも逢へばサアベルにも逢つてな。ある處ぢや、もう、既でのことで、牢の中へ打込まれる處だつたぞ。』などと言つて話した。『おつかア、腹ア減つた、腹ア減つた!』かう子供達は母親をせがんだ。それにも拘らず、母親達は平氣で路の角の木の根に腰をかけて話した。
『おつかア、おつかア、腹が減つた!』
『煩せい餓鬼だな。』
かう言つたが、母親の一人は、甘藷の茹でたのを一本出して子供にやつた。と彼方からも此方からも小さい手が五本も六本も出て、煩さくまつはり附いて來た。中には自分の貰つた甘藷を取られてべそをかいてゐるのもあつた。ある者は泣き立てた。
『それ!』
母親は五六本其處に投げてやつた。
其處にも此處にも人達は腰を下して休んだ。或は木の根元、或は藪の中、或は小川の畔、中には足を投出して寢轉んでゐるものもあれば、渇を醫すべく口を川の水に押當てゝゐるものもあつた。娘達は皆な赤い脚半を穿いてゐた。
午後の日影は鮮かにかうした一群の上を照した。日に燒けた顏、
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