も、お方にして見りや好いもんだぞな。』
『まア、行つてからだ。國にや好いのが來よるぞ。』
などと常公は言つた。かれはもうこの冬こそは必ずすぐれた氣に入つた相手を得なければならぬと思つてゐた。
里に下りて行く路などで、何うかすると、常公はその孫娘達と一緒になつた。姉も妹も襤褸を着て、さゝらやたわしを背負つて尻を高くはしより上げて、後になり先になりして岨道を歩いた。
『をんさん(おぢいさん)おつかねえかよ。』
姉も妹も笑ひながら頭を振つた。
『おつかなくねえけりや、俺らんとこへ來うな。』
『…………』
『來ねえ?』
わざと調戯ふやうにして、『來れや、荊棘でも何でも負うぞな。三年一生懸命になつて働くぞな。南部へ伴れて行くぞ。』
『俺ア、なるべいか。』
などと姉娘は笑つた。
『そんなこと言ふけど、好いのがあるんだんべ、ちやんと約束して置いたんべ、歸つて來るのを待つてるんだんべ。』
『さうかも知れねえよ。』
『當てゝ見べいか?』
『見さつしやい。』
こんなことを言ひながら三人は縺れながら歩いた。娘達は一緒に行つた朋輩の一人二人が町で誘惑されて行方不明になつた話などをした。『何處へ行つ
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