、劍を下げた人達が草鞋ばきで、二人三人までやつて來た。
『貴樣達は何處から來た。』
『…………』
『山の向うや此方でわるいことをしたのは、貴樣達だらう?』
『…………』
かれ等は一番多くかういふ人達を恐れた。そしてかういふ人達は、きまつて、かれ等に籍の所在地を聞いた。しかしかれ等はさういふものを何處にも持つてゐなかつた。強ひて詰問されると、かれ等はかれ等の頭領から持たせられた木地屋の古い證書の冩しのやうなものを出して見せた。それは七八百年も前の政廳から公に許可されたやうなもので、麗々しく昔の役人達の名と書判とがそこに見られた。全國の山林の木は伐つても差支ないといふやうな文句がそこに書かれてあつた。
白い服を着た人達も、要領を得ないかれ等種族を何うすることも出來なかつた。徳川幕府の潰れたのも、明治の維新になつたのも、京都から東京へ都が遷つたのも、日清戰役があつたのも、日露戰爭があつたのも、軍艦が出來たのも、飛行機が出來たのも、何も彼も知らないやうなかれ等の種族には、何を言つて聞かせても效がなかつた。後には、警官達も持餘して、唯一刻も早く、自分の受持つ管内からかれ等を立去らしめることを
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