も二人だと樂みで好いだ。この冬に、うんと好いのをさがして、早く祝儀をする方が好い。』かう言ふかと思ふと、『でも、この冬は俺は樂しみがねえな。嚊のない時分には、一年一度國に歸るのが、何より樂しみだつたものだがなア。』
『でも、皆なに逢へるから、樂みでねえこともあんめい。』
『それはさうだがな。』
 一年一度の同種族の會合、そこに集つて來る大勢の人々、彼方此方から持つて來るめづらしい御馳走、あの時の宴會の歡樂は、言葉にも言ひ盡すことが出來なかつた。大勢の若い娘達、それを其の日其の夜は何處に伴れて行つても差支なかつた。樹間に幾つとなくかけられた桐油小屋、バケツの中に一杯滿された酒、年寄も若者も一緒になつて賑はしく歌を唄つて躍つた。
 彼處に五日、此處に三日といふやうにして、かれ等は次第に國の方へと近づきつゝ放浪して行つた。峯から峯、谷から谷、林から林と移つて行くかれ等は、ある宿泊地で、最初に、三人づれの同種族と一緒になつた。
 老いた婦に若夫婦、その若夫婦は今年二つになる子供をつれてゐた。その群を最初常公が發見した。
『何うも、あそこに桐油があるかしら?』
『何處に……』
『そら、あの山の陰
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