。で、かれ等は前の山とは正反對の山の裾の處に來て、桐油を張つて五六日其處で暮した。秋はもういつかやつて來てゐた。山で取れるものには、初茸、松茸、しめじ、まひ茸などがあつた。しかしそれも時の間になくなつて、日が照つたり雨が降つたりしてゐる間に、朝晩は持つてゐた着物でも寒い位になつた。平公夫婦は、常公を山に置いては、さゝらだの木地だのを持つて里の方へ出かけて行つた。
ある日は大祭日か何かで、里では、國旗が學校や役場やその他の民家の軒にかゝげられて、酒に醉つて赤い顏をした人達が彼方此方を歩いてゐた。ある木地屋では、平公夫婦は酒や蕎麥を御馳走になつた。お金の澤山に取れた時には、かれ等は白鳥に一杯地酒を買つて、それを山に持つて來たりした。
常公はいつも獨りで別に桐油を樹間にかけた。かれは木地をつくるよりも、蜂を取つたり、岩魚を取つたりする方が得意で、岩魚は燒き串にさして、そして里へ持つて行つた。
『もう、冬が近づいた。國に歸るのももうぢきだ。』
かう言つて、平公は常公の桐油を訪ねた。この冬は是非嚊を持つやうに平公は勸めた。『一人で稼ぎに出るのと、二人で出るのとでは、大變な違ひだぞな。何して
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