、バケツ、鉈、鉞、鋸、さういふものも、箱に入れると、小さい包になつて了つた。樹に結びつけたテントを外して、夫れを小さくたゝんで、平公と若い嚊とはそれを適度にわけて負つた。
『氣の毒だつたな。』
 かう何遍となく常公は言つた。
『何アに、何うせ、もう、明日か明後日は向うに行かうと思つてゐたんだ。』
 雨はまた少し降つて來た。しかしかれ等は別にそれを苦にするといふでもなかつた。かれ等の立つた跡には、鉋屑と、竈と、燒火の跡とが殘つた。切り倒した木も縱横に散ばつてゐた。
 かれ等が高原の草原から羊腸とした坂路にかゝる時には、それでも雨は晴れて、白い或は灰色の雲が渦まくやうに峯から峯へと湧き上つてゐた。雲の間からは、大きな深い紫色をした山が見えたりかくれたりしてゐた。名も知らない鳥が向うの山裾の深林の中で鳴いてゐた。

         三

 其處に三日ほどゐて、それから三人は又別の方へと移つて行つた。それでも常公は工夫になつて働いた時に貯めた金をまだいくらか持つてゐたので、金を出して、平公から米を分けて貰つた。
 矢張、里に近いところでなければ、仕事をして、それを買つて貰ふことが出來なかつた
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