ていく。楊樹を透かして向こうに、広い荒漠たる野が見える。褐色した丘陵の連続が指さされる。その向こうには紫色がかった高い山が蜿蜒《えんえん》としている。砲声はそこから来る。
五輛の車は行ってしまった。
渠《かれ》はまた一人取り残された。海城から東煙台、甘泉堡《かんせんほう》、この次の兵站部《へいたんぶ》所在地は新台子といって、まだ一里くらいある。そこまで行かなければ宿るべき家もない。
行くことにして歩き出した。
疲れ切っているから難儀だが、車よりはかえっていい。胸は依然として苦しいが、どうもいたしかたがない。
また同じ褐色の路、同じ高粱《コーリャン》の畑、同じ夕日の光、レールには例の汽車がまた通った。今度は下り坂で、速力が非常に早い。釜《かま》のついた汽車よりも早いくらいに目まぐろしく谷を越えて駛《はし》った。最後の車輛に翻《ひるがえ》った国旗が高粱畑の絶え間絶え間に見えたり隠れたりして、ついにそれが見えなくなっても、その車輛のとどろきは聞こえる。そのとどろきと交じって、砲声が間断なしに響く。
街道には久しく村落がないが、西方には楊樹のやや暗い繁茂《しげり》がいたるところに
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