ではなく、ちょうどこむらが反《かえ》った時のようである。
 自然と身体《からだ》をもがかずにはいられなくなった。綿のように疲れ果てた身でも、この圧迫にはかなわない。
 無意識に輾転反側《てんてんはんそく》した。
 故郷のことを思わぬではない、母や妻のことを悲しまぬではない。この身がこうして死ななければならぬかと嘆かぬではない。けれど悲嘆や、追憶や、空想や、そんなものはどうでもよい。疼痛、疼痛、その絶大な力と戦わねばならぬ。
 潮のように押し寄せる。暴風のように荒れわたる。脚を固い板の上に立てて倒して、体を右に左にもがいた。「苦しい……」と思わず知らず叫んだ。
 けれど実際はまたそう苦しいとは感じていなかった。苦しいには違いないが、さらに大なる苦痛に耐えなければならぬと思う努力が少なくともその苦痛を軽くした。一種の力は波のように全身に漲った。
 死ぬのは悲しいという念よりもこの苦痛に打《う》ち克《か》とうという念の方が強烈であった。一方にはきわめて消極的な涙もろい意気地《いくじ》ない絶望が漲るとともに、一方には人間の生存に対する権利というような積極的な力が強く横たわった。
 疼痛は波のよ
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