行けはせん」
 「はア」
 「まア、新台子まで行くさ。そこに兵站部があるから行って医師に見てもらうさ」
 「まだ遠いですか?」
 「もうすぐそこだ。それ向こうに丘が見えるだろう。丘の手前に鉄道線路があるだろう。そこに国旗が立っている、あれが新台子の兵站部だ」
 「そこに医師がいるでしょうか」
 「軍医が一人いる」
 蘇生《そせい》したような気がする。
 で、二人に跟《つ》いて歩いた。二人は気の毒がって、銃と背嚢《はいのう》とを持ってくれた。
 二人は前に立って話しながら行く。遼陽の今日の戦争の話である。
 「様子はわからんかナ」
 「まだやってるんだろう。煙台で聞いたが、敵は遼陽の一里手前で一支《ひとささ》えしているそうだ。なんでも首山堡《しゅざんぽ》とか言った」
 「後備がたくさん行くナ」
 「兵が足りんのだ。敵の防禦《ぼうぎょ》陣地はすばらしいものだそうだ」
 「大きな戦争になりそうだナ」
 「一日砲声がしたからナ」
 「勝てるかしらん」
 「負けちゃ大変だ」
 「第一軍も出たんだろうナ」
 「もちろんさ」
 「ひとつうまく背後を断《た》ってやりたい」
 「今度はきっとうまくやるよ
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