と言って耳を傾けた。砲声がまた盛んに聞こえ出した。

 新台子の兵站部は今|雑沓《ざっとう》を極めていた。後備旅団の一箇聯隊《いっこれんたい》が着いたので、レールの上、家屋の蔭《かげ》、糧餉《ひょうろう》のそばなどに軍帽と銃剣とがみちみちていた。レールを挾《はさ》んで敵の鉄道援護の営舎が五棟ほど立っているが、国旗の翻《ひるがえ》った兵站本部は、雑沓を重ねて、兵士が黒山のように集まって、長い剣を下げた士官が幾人となく出たり入ったりしている。兵站部の三箇の大釜《おおがま》には火が盛んに燃えて、煙が薄暮の空に濃く靡《なび》いていた。一箇の釜は飯が既に炊《た》けたので、炊事軍曹が大きな声を挙げて、部下を叱※[#「※」は「口+它」、第3水準1−14−88、154−13]《しった》して、集まる兵士にしきりに飯の分配をやっている。けれどこの三箇の釜はとうていこの多数の兵士に夕飯を分配することができぬので、その大部分は白米を飯盒《はんごう》にもらって、各自に飯を作るべく野に散った。やがて野のところどころに高粱の火が幾つとなく燃された。
 家屋《いえ》の彼方《かなた》では、徹夜して戦場に送るべき弾
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