言われて、お磯もあきらめて、お家の方へ帰りました。
「もしか、お人形が、人買《ひとかい》に連れてゆかれたらどうしましょう。それともお化《ばけ》が出てきて食べないかしら」
お磯はそれが心配でした。
けれど、人買もお化も連れてゆきませんでした。長い草は微風《そよかぜ》にふかれながらも、人形を誰《だれ》からも見えないように、上手にかくしてくれました。だから人形は、日がくれてもじっとそこに寝ていました。
日が暮れると、一番に出る青い星が、森の上へ出てぴかぴか光りました。
[#ここから2字下げ]
……お星さん お星さん
[#ここから4字下げ]
ひとつぼしで出ぬもんじゃ
千も万も出るもんじゃ
[#ここで字下げ終わり]
遠くの方で男の児《こ》の歌う声がしました。人形は、もしや私を連れに来るのかと、眼《め》をぱっちりあけていましたが、歌の声も遠くへいってしまいました。
「どうなることだろう」
人形はもう泣き出しそうになりました。
[#ここから2字下げ]
……リイリイリイ……
[#ここで字下げ終わり]
近くの草のなかで、鈴虫が鳴きだしました。人形は大喜びで、
「鈴虫さん、あたしをお嬢さんのと
前へ
次へ
全5ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
竹久 夢二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング