《とぎばなし》の子供の家のような家もありました。
 二十四番地! さあここだぞ。今田時雄《いまだときお》、ああこれだ、これが昔の友達、時公《ときこう》の家だ。白い石の柱が左右に立って、鉄の飾格子《かざりごうし》の扉《ドア》のような門がそれでした。まるで郡役所のような門だなと、留吉《とめきち》は考えました。
 門からずっと玄関まで石を敷きつめて、両側に造花《つくりばな》のような舶来花を咲かせてありました。
「時公《ときこう》もエラクなったもんだな、算術なんかあんな下手糞《へたくそ》でも、都へ出るとエラクなれるものだな」留吉は、昔の友達の門をはいって、玄関の方へずんずん歩いてゆきました。
 すると、なんだか変てこな心持が、留吉の心をいやに重くしはじめました。変だぞ、留吉は生れてはじめて、こんな厄介な気持を経験したので、自分にははっきり解《わか》らないが、留吉はすこし気まりがわるくなったのです。それはたいへん留吉を不愉快にしました。
「時公におれは竹馬を作ってやったこともあるんだ。あいつはその事もまだ覚えているだろう」
 この考《かんがえ》は、留吉をたいへん気安くして、元気よく玄関の前まで、
前へ 次へ
全10ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
竹久 夢二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング