ましたが、帯地の安いことは留吉には用のないことでした。それよりも、今夜留吉はどこへ寝たら好《い》いだろうと考えました。
留吉は、小学校時代の友達で、村長の次男がいま都に住んで好《よ》い位置を得てくらしていることを思出《おもいだ》しました。
卒業試験の時、算術の問題を彼に教えてやったことがあるから、訪ねてゆけば、彼もあの時の友情を思出すに違いない。留吉は、昔|馴染《なじみ》の友達の住所をやっと思出しました。
そこは山の手の高台で、門のある家がずらりと並んでいるのでした。
二十四番地、都は掛値をする所だから、なんでも半分に値切って、十二番地、だなんて、村で物識《ものしり》の老人がいつか話してくれたのを思い出したが、まさかそれは話だと、留吉は考えました。
さて、二十四番地はどこだろう。
細っこい白い木柵《もくさく》に、紅《あか》い薔薇《ばら》をからませた門がありました。石を畳みあげてそのうえにガラスを植えつけた塀がありました。またある所には、まるで西洋菓子のようにべたべたいろんな色のついた、ちょっと食べて見たいような西洋風な家もありました。紅い丸屋根をもった、窓掛の桃色の、お伽噺
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