はないだろう。牛や馬の生活と異《ちが》ったことはない。たとえ馬であっても都で暮して見たいものだ。広い都のことだから、馬よりはすこしはましな生活が出来るだろう。留吉《とめきち》はそう考えると、もうじっとしていられないような気がするのでした。
それから三日目の朝、留吉は都の停車場へ降りていました。絵葉書や雑誌の写真で見て想像はしていたが、さて、ほんとうに都へ来てみると、どうしてこんなに沢山な人間が、集っているのだろう、そしてなんのためにこの大勢の人間は忙《せわ》しそうにあっちこっちと歩いているのだろう。ちょっと立っている間にさえ、自動車が二十台も留吉の前を走って行きました。
唐草模様のついた鞄《かばん》一つさげた留吉は、右手に洋傘《こうもり》を持って、停車場を出て、歩きだしました。
「おいおい危《あぶな》い!」腕に青い布《きれ》をつけた巡査がそう言って、留吉を電車線路から押しだして、路《みち》よりもすこし小高くなった敷石の上へ連れていって、「電車に乗るなら、ここで待っていて下さい」と言いました。
そこには立札があって「帯地全く安し」と書いてあるのです。留吉は「呉服屋の広告だな」と思い
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