「山本先生だ」
 それは体操の先生でした。いつもなら怖い山本先生が、今日はなんだか、急になつかしくなって、涙がぼろぼろと出てきました。

 こんなことでAもBも、許されない冒険が、そんなに思ったほどたのしいものでないということを学びました。しかしこの経験は、すぐわすれてしまいましたが……。
 それよりも、それから後にAが、あの時のことを思出《おもいだ》して、ちょっと顔を赤くするほど恥《はず》かしかったことがありました。それはAがそのことを誰《だれ》にも言わなかったから、つまり秘密のままでおいたからなのです。
 それはこうです。その年が暮れて、あくる年のお正月のことでした。Aの家ではある晩のこと、親類や知人の家の子供達を集めて、一晩カルタやトランプなどをして遊んだことがありました。そのあとで“who, when, where, what”という遊びをしたのです。「誰がいつどこで何をした」と読みあげるのです。詳しく言えば、まず紙片《かみきれ》を四枚ずつみんなに渡します。第一の紙片には、自分の名前を書きます。第二の紙片には、昨日とか、子供の時にとか、時を書きます。それから第三の紙片へは場
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