その隣の果物屋のは、十二時五分前でした。なんしろ今頃学校にいれば午餐《ひる》をすまして、運動場でキャッチボールでもしている時間でした。
二人はもうちっとも幸福ではありませんでした。何かしら重い袋でも背負っているように、その袋の中に何かしらない心配がつまっているような心持でした。
学校がひける三時まで、こうして街を歩いているのが、とても苦しくて、罰をうけているようだと思われだしました。
「学校へいって見ようか」
「ああ」
二人は、来た道を逆にまた学校の方へ歩き出しました。二人が学校のあの街の方まで辿《たど》りついたのは、三時を過ぎた時間だったと見えて、もうその辺に知った生徒達の姿は一人も見あたりませんでした。
こわごわ門のとこまできてみると、大きな門はぴったり閉まって先生や小使が出入《でいり》する脇《わき》の小門だけが僅《わずか》に明いていました。
すると砂利を踏む足音が門の中から聞えてきました。
「来た!」
「先生だ!」
学校のわきが原っぱで、垣根の中にアカシヤの木が茂っていました。二人はその中へ飛込んで、死んだようにじっとして、眼《め》だけ動かしていました。
「あ、あれだ
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