、あすこの椅子《いす》へ腰をかけて、ソーダ水でもチョコレートでも飲めるのだということを、二人はこの時はじめて気がついたのでした。
「君お金ある?」
「ああ、二十五銭」
「ぼく五銭だ」
「お茶が一杯ずつのめるね」
 二人は笑いませんでした。
「なんだか這入《はい》るのがきまりが悪いね」
「ああ、よそうよ」
 二人は喫茶店の店先までそっと歩いていったが、恰度《ちょうど》その時、中から女の笑声《わらいごえ》がしたので、びっくりして、小さい中学生達はどんどん逃げ出しました。
 敵がどこまで追跡してくるかわからないような気がして、なんでも、横町を三つばかり曲って、時計屋の飾窓の下まできて、ほっとして足をとめました。二人は、もう大丈夫だと思ったのです。
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ちっくたっく   ちっくたく
がっちゃこっと  がっちゃこっと
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いろんな時計が、いろんな音をたててうごいているのです。そして八時十五分のもあれば、二時四十分のもありました。
「幾時|頃《ごろ》なんだろう」
「時計屋の時計はあてにならないね」
 時計屋の隣の散髪屋の時計は、十二時を八分過ぎていました。
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