》がいたり、垣根のわきに日輪草《ひまわり》が咲いていたりすると、きっと立止って、珍らしそうに眺めたり、手に触れるものは、きっと触って見るのでした。
 いつの間にか二人は、日本橋を渡っていました。それから二人はまた野犬《のらいぬ》のように、あっちへ鼻をくっつけたり、こっちへ耳を立てて見たりしながら、どこをどう歩いたのか、大きな川のそばへ出ていました。
「隅田川だね」
「ああ」
 ここまでやって来ると、もう二人ともすこし疲れて、それに腹がへっていましたから、ものを言うのさえ臆劫《おっくう》なのでした。だまって川の端の石の上へ腰をおろしました。
 一銭蒸気がぼくぼくぼくと、首だけ出して犬が川を渡るような恰好《かっこう》をして川を上ったり下ったりしていました。
「お腹《なか》がすいたね」
「君は弁当持ってる?」
「持ってない、君持ってるの」
「パンがあるよ」
 二人は一つの弁当をかわるがわるちぎって食べました。すると何か飲むものがほしくなりました。
 眼《め》の前には沢山水が流れていましたが、黄いろい色をした泥水でした。道の向うに、赤いカーテンを窓にかけた喫茶店がありました。金さえ持っていれば
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