所です。これも想像してなるべく奇想天外な場所を選んで書きいれるのです。そして最後の紙へ何をしたと書いて、それを誰にも見られないように、予《あらかじ》め定《き》めておいた第一の紙片を持つ人に名前の紙を、第二の紙を第二の人に、順々に渡して、みんな揃《そろ》った所で、第一から第二、第三と、連絡をとって読みあげるのです。すると自分の書いた「時」がある人の「所」とくっついたり、人の書いた「したこと」が自分のところへ結びついたりして、思いがけない名文や珍文が出来あがるのです。
ところがその晩どうしたものか不思議にも、中学生Aのところへこんな文章が出てきたのです。
「かっちゃんは、去年の暮、ニコライの塔のてっぺんで、べそをかきました」
というのです。Aのことをみんなかっちゃんと呼んで居ましたから。
「かっちゃんたいへんね」とAの姉さんが言いました。みんなAの方を向いて笑いました。すると十一になる従妹《いとこ》が
「かっちゃん本当?」
と訊《き》きました。訊く[#「訊く」は底本では「訴く」]方はむろん冗談だったのですが、当人のかっちゃんは、旧悪が露見したような気がしてはっとしたのです。
「うそだい」
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