いた。森先生の許《とこ》へといえば、また何とか意地悪い事を言われるのがいやさに、それとなく、
「ちょっとそこまで……」と答えた。
「隠したって知っててよ、森先生の許でしょう! 先生の所へいったって駄目よ。先生はあなたのこと怒っていらしてよ。そしてあなたを大嫌いだって」
さも憎らしそうに光子は言って、葉子の持っている花を見つけた。
「まあ、それを先生の許へ持っていらっしゃるの。そうでしょう※[#疑問符感嘆符、1−8−77] 先生の許にはもっと綺麗《きれい》な花が山のようにあってよ。だって温室からとっていったんですもの。でもいらっしゃりたいなら勝手にいくと好《い》いわ。そんなきたない花を先生はお喜びになるかもしれないわ。あばよ」そう言捨てて光子は行ってしまった。
あとに残された葉子は橋の欄干にもたれて、じっと唇をかんで怺《こら》えたが、あつい涙がはらはらと水のうえに落ちた。
葉子はしばらく橋の上から川の水を眺めていたが、手に持っていた花束を水の中へ投捨てて一散に家《うち》の方へ走った。
5
その日の夕方、森先生の使《つかい》が、葉子の許《もと》へ一つの包を届けた。葉子は何
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