いけないわね」
 葉子はじっと思入《おもいい》って朝子を見つめて「朝子さん」
「え」
「あなた森先生お好き?」
「ええ、好きよ、大好きだわ」
「あたしも好きなの、でも先生は私のことを怒っていらっしゃる様なの」
「そんなことはないでしょう」
 葉子は、朝子に心配の種を残らず打明けた。それから二人は森先生のやさしいことや、先生は何処《どこ》の生れの方だろうという事や、先生にもお母様があるだろうかという事や、もし先生が病気なさったら、毎日|側《そば》について看病してあげましょうねという事や、もしや死んでしまっても、先生のお墓の傍《そば》に、小さい家《うち》をたてて、先生のお好きな花をどっさり植えましょうという事などを語り合った。

   4

 それから三日目の朝、学校へゆくと森先生が病気だという掲示が出ていた。葉子《ようこ》は、学校から帰ると大急ぎで野原へ出て、いつぞや森先生が仰有《おっしゃ》った、お好きな花を抱えきれないほどたくさんに摘みとった。
 葉子は、いつか森先生に出逢《であ》った橋の所まで来ると、向うから光子《みつこ》が来るのに会った。
「何処《どこ》へ行くの?」光子がいきなりき
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