校へ来るのが妬《ねたま》しくてならなかった。その週間も過ぎて、つぎの地理の時間が来た。
 葉子が忘れようとしていた記憶はまた新しくなった。葉子は、おずおずと先生の方を見た。先週習ったところは幾度となく復習して来たから、どこをきかれても答えられたけれど、先生は葉子の方を決して見なかった。そして光子に向って、
「巴里《パリー》はどこの都ですか」とお訊《たず》ねになった。すると「佛蘭西《フランス》の都であります」と光子が嬉《うれ》しそうに答えた。
 地理の時間が終ると、運動場《うんどうば》のアカシヤの木の下へいって、葉子はぼんやり足もとを見つめていた。何ということなしに悲しかった。
「葉子さん」そう言って後《あと》から葉子の肩を軽く叩《たた》いた。それは葉子と仲好《なかよし》の朝子《あさこ》であった。朝子は葉子の顔を覗《のぞ》きこんで「どうしたの」ときいた。
「どうもしないの」そういって葉子は笑って見せた。
「そんなら好《い》いけど。何だか考えこんでいらっしゃるんですもの、言って好いことなら私に話して頂戴《ちょうだい》な」
「いいえ、そんな事じゃないの、私すこし頭痛がするの」
「さう、そりゃ
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