を言うのを忘れていた。
「葉子さんおはよう!」光子はわざと意地悪く葉子の前へ突立《つった》ってお辞儀をした。そして「葉子さん、今日は廻《まわ》り道をしていらしたのね」
と光子は科《とが》めるように言った。葉子は日頃《ひごろ》から意地の悪い光子が好きでなかった。
「ええ」と葉子はおとなしく答えた。
森先生は、葉子のリボンをなおしてやりながら、
「葉子さんのお宅《うち》は山の方でしたねえ。お宅の近所の野原には沢山に草花が咲いていてどんなにか好《い》いでしょうね」
「先生はあんな田舎《いなか》の方がお好きですか」
「ええ、毎日でもゆきたいと思いますわ」
「先生、私の宅へいつかいらっしゃいましな。そりゃあ綺麗《きれい》な花があるの。だって、葉子さんのお宅の庭よかずっと広いんですもの」
光子が勢《いきおい》こんで言ったけれど、誰《だれ》もそれには答えなかった。
3
つぎの日も、そのつぎの日も、葉子《ようこ》は森先生を橋の上で待合して学校へ行った。けれどノートの事については何にも仰有《おっしゃ》らなかった。葉子もそれをきこうとはしなかった。
光子《みつこ》は葉子が先生と一緒に学
前へ
次へ
全8ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
竹久 夢二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング