ちは」
先生「今日は」
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
少年「先生、先生は先刻《さっき》、山の方で唱歌をお歌いになりましたか」
先生「いや、歌いませんぞ」
少年「でも、先生、ぼくたちが唱歌を歌っていたら向うの山でも唱歌を歌いましたよ」
先生「なるほど」
少女「それからねえ先生、あんまり真似《まね》をするからお兄さんが誰《だれ》だって仰言《おっしゃ》ると、向うでも誰だって言いましてよ」
先生「なるほどね」
少年「あれは山の婆《ばばあ》が歌ったんですか」
先生「ははは、それはね山のお婆《ばあ》さんでも神様でもない。山彦《やまびこ》というものじゃ」
少年「山彦がものを言うんですか」
先生「そうじゃ、こちらの声が向うの山へ響くと、向うの山がそれを返してくるのじゃ、だからこちらの言う通りに向うでも答えるのだ」
少年「だから僕が馬鹿《ばか》野郎って言ったら向うでも馬鹿野郎って言いましたよ」
先生「そうだろう。だからこちらで何かやさしい事を言ってやれば、向うでもやさしい事を返してくるのじゃ」
少年「おもしろいなあ」
少女「兄さん、何かやさしい事を言って御覧なさい」
少年(山に向い)「こ
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