ったんだもの」
 文句が長かったので、一息でいってしまうのは大抵の事ではなかった。
 荒木夫人は干からびたような嘲笑《わらい》を洩《もら》して
「ああそういうんですか? それでお前さんは、何故お前さんのお母様が私に逢いたくないのか、その訳を知っていなさるかえ?」
「だって――母様、そう言ったもの!」
 あなたの言ったことはきれぎれで恰度《ちょうど》「いろは」の御本を読むようだったので、荒木夫人は呑込《のみこ》めなかったかもしれなかった。
 しかし、兎《と》に角《かく》、うまく行った。荒木夫人は火のように怒って、鼻息を荒くしながら、裾《すそ》を蹴返《けかえ》して帰って行った。
「もう決して決して」といって、門の戸をピシャリと閉めた。
 あなたは静かにドアをしめた。
 戦《たたかい》は勝てり!

 あなたは庭へ引返した。
「もう済んだ、もう済んじゃった。」
「何がもう済んだっての、坊や」
「荒木の奥さん」とあなたは答えた。
 こんな風にあなたは母様に尽した。母様はますますあなたを可愛《かあい》がり、あなたもますます母様に尽したのでした。この日頃《ひごろ》あなたは病気ではあったものの、なお且
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