少年・春
竹久夢二

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)仰言《おっしゃ》った

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)子供|達《たち》もまた

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから4字下げ]
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   1

「い」とあなたがいうと
「それから」と母様は仰言《おっしゃ》った。
「ろ」
「それから」
「は」
 あなたは母様の膝《ひざ》に抱っこされて居た。そとでは凩《こがらし》が恐《おそろ》しく吼《ほ》え狂うので、地上のありとあらゆる草も木も悲しげに泣き叫んでいる。
 その時あなたは慄《ふる》えながら、母様の頸《くび》へしっかりとしがみつくのでした。
 凩が凄《すさま》じく吼え狂うと、洋燈《ランプ》の光が明るくなって、卓《テーブル》の上の林檎《りんご》はいよいよ紅《あか》く暖炉の火はだんだん暖《あたたか》くなった。
 あなたの膝《ひざ》の上には絵本が置かれ、悲しい語《はなし》のところが開かれてあった。それを母様は読んで下さる。――それはもうまえに百遍も読んで下さった物語であった。――その時の母様の顔色の眼《め》は
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