沈んで、声は低く悲しかった。あなたは呼吸《いき》をころして一心に聴入るのでした。
[#ここから4字下げ]
誰《た》ぞ、駒鳥《こまどり》を殺せしは?
雀《すずめ》はいいぬ、われこそ! と
わがこの弓と矢をもちて
わが駒鳥を殺しけり。
[#ここで字下げ終わり]
これがあなたの虐殺者というものを聴知った最初であった。
あなたはこの恐ろしい光景を残りなく胸に描き得た。この憎むべき矢に射貫《いぬ》かれた美しい暖い紅の胸を、この刺客の手に仆《たお》れた憐《あわ》れな柔かい小鳥の骸《むくろ》を。
咽喉《のど》が急に塞《ふさ》がって、涙があなたの眼に浮かぶ。一滴また一滴、それが頬《ほお》を伝って流れては、熱いしかも悲しい滴りが、絵本のうえに雨だれのように落ちた。
「母様、駒鳥は可哀《かあい》そうねエ」
「坊や、泣くんじゃないよ」
「でも母様、雀が……雀が……こ……殺しちゃったんだもの」
「ああ、そうなの。雀が殺してしまったのよ。本にはそう書いてありますけれど、坊やは聞いたことがありますか」
「何《な》あに」
絵本は、その悲しい話の半面を語ったに過ぎなかった。他の半面は母様が知っていなさった。駒
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